失敗しない会社経営 その4・中小企業が使える管理会計④構築編・ケース①

引き続き、本シリーズとして④構築編をご案内してみたい。

前回の③基礎編が前提となってくるため、もしまだそちらをご一読されていない方についてはまずは③基礎編をサラッとご確認頂けると幸いである。

また、繰り返しにはなるが本コラムまたは本シリーズはあくまでも中小企業の経営を対象としているため、一般的な管理会計論と呼ばれる学問または管理会計すべてについてご案内・言及するということではないことにご留意頂きたいと思う。

<④構築編の流れ>

1)構築編の読み方フローチャート
2)ケース①(管理会計が未導入、又は損益分岐点程度までの導入の場合)の構築)
3)ケース①のまとめ、ケース②へのステップアップ
4)ケース②(利益管理程度まではすでに習慣化されている場合)の構築

1)構築編の読み方フローチャート

構築編では大きく2つのケースに分けてご案内していきたい。

というのも、中小企業にとって管理会計は何か法令や規則によって強制的・義務的に取り入れなければならないものではなく、かと言って強制的・義務的ではないが故に、どこから・どこまで・どの程度まで管理会計を取り入れるかは任意であり、いずれにしても、丁度よく取り入れるには、現時点での会社状況に応じるべきだと考えているからである。

以下のようなフローチャートを用意したので参考にして欲しい。

図A〈構築編の読み方フローチャート〉(クリックで拡大)

2)ケース①(管理会計が未導入、又は損益分岐点程度までの導入の場合)の構築

本ケースでは、

・ほとんど管理会計について知らない
・他社の実践事例としては聞いたことはある
・自社の損益分岐点程度は自身で計算して確認している

というような状況の会社を対象としている。

管理会計を取り入れ構築していくための初歩は、その2・②入門編でも記したとおり、まずはCVP分析たる損益分岐点から触れてみることから、自社の経営について数字で捉えてみる試みがスタートとしては丁度良いと考えている。

その上で決算書や、キャッシュフロー計算書や資金繰表(もしあれば)をもとに、

・短期的な財政上の問題は抱えていないか、否か

について「短期的な問題はまだそれほどない」「短期的にかなり問題がある」の2つの基準で評価を行っていただきたい。

この評価を行うための手段は、財務分析の一環である『当座比率』と『売上高経常利益率』である

図B[当座比率と売上高経常利益率の算定式](クリックで拡大)

特に、当座比率そのものが80%程度で、かつ、売上高経常利益率が1%を切っていたりマイナスだったりするような場合には往々にして「短期的にかなり問題がある」状態だと言えよう。このような場合には応急処置的な資金繰り改善がほぼ必須というような状態に極めて近く、管理会計云々よりも先にそちらをクリアしなければならないと考える(分かりやすく表現すると、事業再生に近い状態)。

また、当座比率が100%を切っていながら、かつ、売上高経常利益率が1%前後であるような場合は、「短期的な問題はまだそれほどない」ものの、しかし仮に融資の返済などの負担がある場合には応急処置的な改善に迫られる状況に近く、危険性は相応にあるような状態だと言えよう。もし、売上高経常利益率が5%前後やそれ以上であるようならば(規模にもよるが)、今後財政状態は今よりも良くなっていくことが期待できる。

そして、当座比率は余裕で100%を超えており、かつ、売上高経常利益率が5%を超えるような状態が続いている場合は、「短期的な問題はそれほどない」以上に健全な状態だろうと言える。しかし、もし売上高経常利益率が1%前後であるような場合には、場合によっては今後の財政状態は簡単に悪化するかもしれない可能性を抱えている不安な状態であると言える。

図C[財政上の問題評価](クリックで拡大)

財政上「短期的にかなり問題がある」場合には上述のとおり、まずは資金繰り改善をすべく、例えば融資借入の返済計画の見直しとその相談が優先されるべきであり、可能な限りの固定的支出を緊急的に抑える(応急処置としての止血!)ことが必然的に求められるため、管理会計の構築はその後に取り組まれることをおススメする。

そうではなく「短期的な問題はまだそれほどない」場合には、2つのことに絞り込んで管理会計を構築してみてはいかがだろうか。

その2つのこととは、

である。

(1)粗利管理

粗利とは、例えば「100円で仕入れた商品を120円で販売しました、利益は20円です。」という段階での利益を指す。

ちなみに、「100円で仕入れた商品を1個120円で販売しており、今月は10,000個売ることができました。当社の今月の仕入以外の本業に対する経費は18万円でした。」という場合における経費18万円まで差し引いた後の利益(粗利20万円-経費18万円=2万円)は“営業利益”を指すこととなる(参考までに)。

つまり、粗利管理とは「粗利=売上高-直接原価」の図式を、自社の事業形態に合った形で管理すること、と言い換えることができる。

会社によってはこうした粗利管理を徹底されているところもあるだろうが、比較的そういった会社は少数であることが多いことだろうと認識している。皆さまの会社はいかがだろうか。

上記のような単純な例であればその管理は容易いだろうけれど、実際には商品ごと・取引先(市場)ごと・販売(流通)チャネルごと・事業ごとによって粗利は異なることが多く、ゆえに、徹底した管理を日常的に行うことを困難ならしめているものと思われる(下図参照)。

図D[単純な例と実際の比較]<クリックで拡大>

この粗利管理を行うことは、会社経営上、非常に重要な情報をもたらすものと考えている。

その重要な情報とは、

・市場や顧客の反応度合いなどの経営環境の変化に対する情報
・今後の自社成長の方向性に関する情報

の、主に2つの情報である。

直感的に粗利管理が上記2つの情報に及ぶことを認識することは簡単ではないかもしれないが、下図のように粗利を構成する要素を分解してみると、すぐにそのことに気付けるのではないかと思う。

図E[粗利の構成要素の分解例]<クリックで拡大>

業種や業態によっても、これら粗利を原因付けたり構成している要素は異なるため、皆さまの会社ごとに不要な範囲や要素もあることだろう。

このことが管理会計を構築する上では非常に重要なことで、繰り返しになるが、管理会計は法令や諸規則等によって強制的・義務的に取り入れるものではないがゆえの任意性(≒自由度)が大きいがために、構築する上でのポイントをいくつか押さえておかなければならないのである。

このケース①におけるポイントは、下図の2つの軸についてである。

図F[品種量と販売量の2つの軸]<クリックで拡大> 

完全オーダーメイドによる工作機械を請け負い製作されている場合や、注文住宅を受注建築して販売している場合など、これらは1件当たりの粗利が非常に重要になってくる。
中小企業であれば、こうした請負による大型の製作や建築を年間で100件や200件当たり前にこなすというよりも、むしろ月に1件上がるかどうかといった規模の場合の方が多いのではないかと思われるが、そうした場合に、1件で上がる粗利が1~2ヵ月分ほどの固定費を賄っているというような状況でもあり、ゆえに、1件当たりの粗利を徹底管理しなければ簡単に会社は赤字に転落してしまいかねない可能性が高まったり、今後数年間に渡る中長期的な投資(設備や人材のほか、市場調査や市場開拓などに関するものも含む)を実現するだけの体力を保つことは難しくなるだろうと思われるのだ。

また、ある程度まとまった数量を販売するような事業の場合には「規模の経済」という観点および、その規模が何で規定されているかを知ることが非常に重要となってくる。
多くを販売する能力があったり顧客が居るからこそ、大量に仕入れることによるメリットを受けられたり、材料や資材の発注先とのより親密な信頼関係を築いたり維持したりすることにも繋がるのであって、そうすることで自事業に関係する供給状況などの情報が入りやすくなったり交渉力を強めたりすることが可能となるのではないだろうか。

そのためにも、どのような顧客層や市場やエリアが多く購入しているか、粗利をどの程度稼げていて価格競争力面でも耐えうる状況であるかどうかなど、経営する上では欠かすことのできないだろう判断材料を適宜・適切に入手できるような管理体制を敷いておくことは非常に重要なことではないだろうかと思うのだ。

粗利管理を行うこととは、こうした自社事業の最も主要な販売業務に・最も強い関連性ある情報とを結びつけて定量的に捉えることである。

経営計画や事業計画を立案・策定する際に、売上について考えるとき、あまりに具体性のない計画、言い換えると“単なる数字並べによる計画”に成り下がってしまうケースがあるが、なぜこのような事態が生じてしまうのかというと、こうした最も重要な粗利管理が全く出来ていないからであると言える。自社事業についての客観的な情報を蓄積していない場合によく起こり得るケースである。

まずは、自社が取り扱うプロダクトやサービス、そしてそれらを流通させている市場や顧客についての情報を、多いか少ないか・大量か小量かで判別しながら整理してみることをおススメしたい。

(2)資金繰り管理

資金繰り管理とは、キャッシュフローの管理のことである。

企業会計上の大きな悩みとなるポイントは

・利益が出ていてもお金が増えているかどうかは見えにくい

ことにある。

例えば「100円で仕入れた商品を120円で販売しました、利益は20円です。なお、仕入代金はすぐに支払ったものの、売上は明日頂くこととなりました。」という場合には、

今日は20円の利益がある、だけど、お金は仕入の100円分減りました

という事態を引き起こすのである(この例では、元々100円持っていないと商売が成り立たない例である)。

ネックになってくるのが“商習慣”というもので、売掛金や買掛金のほか、受取手形や支払手形または分割払いによる未払金など、「売ったり買ったりする際にすぐにお金を頂いたり払ったりはしない」ことがこのような事態を引き起こす原因となる。

企業会計においては『複式簿記』と呼ばれる方法で、損益計算書では利益を明らかにすると同時に、会社に帰属する金銭的な権利義務や資産などとそのための資金調達源泉を貸借対照表で表わす(財政状態)のであるが、ある程度の知識を併せ持っていないと中々会社の資金繰りをそこから読み取ることは難しいと思われる。

そこで、キャッシュフロー計算書と呼ばれる、その見えにくい資金繰り面を見える化させた補填資料もあるのだが、中小企業においてはほぼキャッシュフロー計算書を作成する義務がないため、毎期または毎月それを見ることは出来ていないのではないかと思われるのだが、皆さまの会社ではいかがだろうか。

資金繰り管理については事例をもとに、以下のように解説を行っていくこととする。

まずは、下図の〈資金繰り例A〉をご覧いただきたい。

図G[〈資金繰り例A〉]<クリックで拡大>

こちらは、現時点(20XX年3月末)では手元資金として800円を持っており、当月仕入れたものは当月中にすべて売り切るようなビジネスモデルで販売業を行っている、という仮定の例である。売上と仕入の代金は、すべて翌月末に回収・支払を行っている。

図の下段にある損益計算をご覧いただくと分かるように、毎月の売上げから仕入と諸経費を差し引くと必ず利益が出ていることが確かめられる。

そしてその下段にある資金繰りをご覧いただくと、3月末時点で800円あった手元資金が毎月少しずつ増加していっていることも確かめられる。

つまり、この例では[利益も出ていて、かつ、資金も増加している]理想的な状態であることが分かる。

さあ、では次の例、下図〈資金繰り例B〉をご覧いただきたい。

図H[〈資金繰り例B〉]<クリックで拡大>

こちらは、さきほどの例Aに2つの要素を足した例となっている。

その足した要素とは、

①借入の返済がある
②保険料の一部が積立として支払っている

の2つである。

ちなみに、主要取引となる売上・仕入・諸経費については、その金額やタイミングはすべて上記例Aと全く同じであることを強調しておく。

このような場合、損益計算や資金繰りはどのように変化するだろうか。図の下段にある損益計算および資金繰りについて確認してみよう。

まず損益計算では、今回新たに①と②の2つの要素を足したとしても、売上・仕入・諸経費については全く変えていないため、先ほどの例Aとまったく同じであることが確かめられる。毎月、必ず利益が出ていることが分かる。

注目すべきはその下段にある資金繰りである。こちらはどうだろうか。

例Aでは毎月少しずつ増加していたものが一転、なんと、毎月徐々に減少してしまっていることが確かめられるのではないだろうか。当初あった資金800円が、図の3ヵ月後には720円にまで減少してしまっている。

この例では[利益は出ているのに、資金は減少している]という妙な状態となっていることが分かるが、これこそが世の中で言うところの“黒字倒産”を引き起こすような現象だと言えるのだ。

ここではなるべく分かりやすく「借入返済と保険積立」を事例として加えたが、例えば他にも設備投資を行う際などにも注意が必要である。設備投資を行う際には、一度に大きくお金が出ていくケースもあるだろうし分割払いで毎月お金を出すケースもあるだろうが、いずれにしても、設備投資という行為での出金とそれによる費用負担(減価償却)は異なるため、ある程度の大きなお金の動きがある場合にはそれらを見込んでおかないと、一時的に運転資金が不足するなどという事態も引き起こすことになりかねないのだ。

ではここでは最後の例となるが、下図〈資金繰り例C〉についてご案内したい。

図I[〈資金繰り例C〉]<クリックで拡大>

こちらは、建設工事についての例である。

予定工期が4ヵ月ほどの工事で、着工する際に請負金額の3割を前受け(着手金)し、竣工・引渡時に残り7割を受取ったうえで工事物件の引渡しを完了するという、ごく一般的な取引の例である。

図の下段にある損益計算から確認してみると、こうした数ヵ月間要するような工事や製造に関しては「完成基準」となることから、着工時や工事中には直接の利益が出ることは無く利益0がつづき、引渡し時にようやく一気に売上・原価・利益が計上されることになる。

その一方で、資金繰りについてはどうだろうか。こちらは損益とは違い、お金が動く度にその残高も変動することになるのだが、ご覧いただけると分かるとおり、本事例では一旦は着手金によって資金残高は増加するものの、工事の進捗に伴って毎月の材料代や外注費を支払うことによって徐々に減少していくことが確認できる。特には、最終の引渡し時の入金前、図中の20XX年6月末時点では、本工事にかかる資金は実はマイナスになっており「会社資金の一部が現場へ持ち出しになっているような状態」を生じさせている。

これはあくまでも例ではあるが、実際にもよく起こり得ることとしては、工事が予定工期よりも長引いてしまい、そのために外注費や現場経費が増加したため資金繰りについても自社持ち出しが生じている、そういった事例は世の中でも多いのではないかと思われる。仮にこういった現場が中々完工せずに数件重なってしまうと、会社によっては一時的にでも財政基盤に重大な危険性を及ぼすことにもなるので侮ることなかれ、なのである。

資金繰り管理を通じてこうした実態を把握することによって「改めて、この程度の工期と請負規模であれば中間金をこのタイミングで頂かないと危険性が大きくなってしまう」といった経営判断を生むことができ、より一層の財政的な安全度の高い経営が実現できることに繋がるのではないだろうか。

繰返しになるが、ポイントは“利益が出ていてもお金が増えているかどうかは見えにくい”ことにあるのである。

資金繰り管理においても重要な視点になってくることは、(1)粗利管理に同じく、管理対象をどのような単位でみるかにある。

加えて資金繰り管理ならではの付随視点となるのは、請求や支払の契約形態であったり、行う事業において棚卸や仕掛と言った在庫が関連するか否かが強く関係してくるので、これらのことにも注意しておきたい。

上記の例Cのような1棟・1件・1台あたりの売上高が大きかったり、売上に計上されるまで相応の期間を要するような場合には、個別での管理が妥当となってくる。仮にそれらがBtoBによる請負であるようであれば、請求条件などは取引先に制約される部分もあるため、重ねて取引先ごとに情報を集約させての管理も必要および妥当になるものと考える。

反対に、より多品種であったり大量に物品販売を行うような場合などには、適切な分類をもって管理することが妥当となるだろう。例えば、ECサイトを利用しての大量販売であるのならば、そのECサイトを親分類としつつ、その子分類としては支払方法別に分類したり仕入先ごとに分類したりするという方法が妥当なのではないだろうか。仕入れた商品をいち早くお金に変える能力を高めることに繋げることで、在庫リスクを最小に留めることもなるのである。

3)ケース①のまとめ、ケース②へのステップアップ

業種や業態にもよるが、会社経営上の“三大管理領域”と呼ばれるものがある。

それは何かというと、

一、請求管理(売掛金)
二、在庫管理(棚卸・仕掛)
三、人材管理(人事・採用・教育)

の3つである。

ただし筆者としては今の時代に応じた、中小企業としても必ず欠かせないもう一つの管理領域、

四、顧客管理(見えざる財産・マーケティング)

を足したところでの”四大管理領域”を提唱しておきたい。

今回ご案内したケース①では主に、上記のうちの請求管理・在庫管理・顧客管理について関連する、粗利と資金繰りを管理することによって、自社と市場との関係性を金銭的な結びつきを基準に見渡せるよう、客観的な評価判断材料がデータとして得られることを期待して管理会計を構築されるよう解説してきた。

中小企業の社長は日常業務に忙殺されるほどに、中々経営に集中することは難しいかもしれないが、ある程度の取引規模を確保できているような段階(=現時点での会社規模を維持できる程度の固定費が賄え、かつ、大きく赤字にはならないような段階)にまで事業を継続できているのなら、このような粗利管理や資金繰り管理を日常的に徹底できるような組織体制作りに経営を進めていっていただきたいのだ。それこそが、日常業務に忙殺されてしまう日常から脱するおおきな機会になり得るのである。なぜならば、管理会計は税務署や金融機関などの外部者のための会計とは違い、経営のための会計である。会社をより良くするための“経営に使える”会計である。

経営者の属人的な経験則や能力によって会社は成長することができても、属人的がゆえに汎用性や再現性に乏しく、いつまで経っても経営者が経営に集中することができずに、その属人性に会社が規定されて続けてしまい成長が止まってしまう、ということも世の中には往々にしてあるのである。

管理会計による客観性と客観化は、そういった個別的・属人的な見えにくい部分を見える化させられることに加え、ある程度、誰でも等しく計れるような定量数値化することでの共通認識が得られやすくなるという、大きなメリットがあるのだ。そうすることで、現場に対しては具体性ある行動の指示と確認が可能となり、管理者層に対してはどの範囲をどの程度の目標で管理すべきかが非常に明確になる、つまりは、経営者が兼ね備えている属人的な経験則や能力を共有化・配分することにも繋がっていく。

長くなったが、以上がケース①である。

続きであるケース②については、このケース①がほぼ日常業務化できている状態を前提に、四大管理領域の最後の領域、人材管理に関連する管理会計の構築についてご案内・解説する。