失敗しない会社経営 その1・中小企業が使える管理会計①導入編

新たに会社を創立したり、または親族や他者より会社を承継するうえで、その会社を存続させ成長させていくことこそが、経営者が担う最も重要な責任ではないだろうかと思う。

そして、そのような責任を全うするにあたっては経営者としての意思決定を行う場面は避けられず、いかにして「その意思決定を相当程度正しく行えるかどうか」は、経営者としての手腕そのものとも言えそうではないかと思っている。

ここに示す「その意思決定を相当程度正しく行えるかどうか」とは簡単にまとめてみると、

☑決定するプロセスが明確であるかどうか ⇒決定するための情報の有無と一定量

☑自身の考えを入れた決定であるかどうか ⇒仮説の有無

☑決定根拠を言語化できているかどうか ⇒運営する組織へのブレークダウンを考

の主に3つのポイントについてすべてに“Yes”と言えるかどうかであると考える。

とはいえ、特に日々多忙な中小企業の社長にとっては“経営に特化した時間”を大きく持つことよりも、日常的な現場業務や営業・見積などに注力する時間が大きかったり、クレーム処理や顧客対応などに追われる時間が大きかったりすることの方が一般的に多いのではないかと思われる(結果、エイヤーで決めてしまっていることも、、、)。

そのような細切れの時間の中で、いざ経営について考えてみたり、または今後の経営ビジョンについて思いを寄せてみたりしたとしても、何となくの抽象的なイメージは描けてみても、それ以上に具体化されることにまで至らず、ほぼ何も決まらない(=変わらない)まま“現状よりもちょっと良くなっていればよいとする願望”に終始することで落ち着くケースのほうが多いのでないかと思っている(上述した3つのポイントのいずれもが中途半端な“No”の状態で終えられてしまうことと思われる)。

変わることがすべてにおいて良しとするわけではないが、しかし、経営環境が日々めまぐるしく変化する今日において、“今すぐ変わる”ことではなく“いずれ・必ず・何かしらで変わらなければならない”とする「変化への対応」について考慮しておくことは必要だと考えている。

なぜならば、「自分だけ今よりもちょっと良くなっていたいので、世の中は取り敢えず現状維持の状態が望ましい」はまずあり得ない(これでは経済の根底が覆ってしまう)ことであるうえに、よりグローバル化したこの経済社会における変化の中心が日本からは相応にズレたところにあることから、幾分かのタイムラグを経て「日本はその影響を受ける立ち位置にある」という現代ならではの情勢も理解しておかなければならないからである。

日常からはちょっと飛躍したような範囲にまで話が及んでしまったかもしれないが、高度経済成長期またはバブル景気の頃のような感覚での経営では、現代における会社経営は成立していかないことは言わずもがなであり、今後の労働人口の減少やより少子高齢化していく我が国日本における“あるべき経営とは何か”を問い続けていくことと、その問いに対して経営者としての回答を出していかなかればならないこと(=意思決定)は、大企業であれ中堅企業であれ中小企業であれ、同じ土俵の上に置かれているのではないかと思うのである。

一般的に少数精鋭部隊でその運営にあたる中小企業においては、CFOと呼ばれるような財務責任者や、市場調査や企画戦略を練っていかれるマーケティングなどに特化した部隊などを持たれずに経営されていることと思われるが、そうであってもしっかりと経営意思決定が行える環境を整備し「相当程度正しく意思決定を行える」ようにするために、「失敗しない会社経営」と題して数回に分けてお送りしてみたいと思う。

今回はその第一弾としての導入編として、会社存続のためには成長することが必要であることについて整理するとともに、その上での意思決定として使える会計「管理会計」について簡単に触れるところからスタートを切る。

“存続と成長”の関係

いかなる製品・商品・サービスであっても、世の中に受け入れられない限りはその事業が続くことはなく、製造・販売・提供する側の会社の世の中における存在意義そのものが希薄になることも同時に意味するものと考えられる。

そうならないように、日頃より様々な経営に資する情報を収集し取捨選択しつつ、マクロまたはミクロな視点からの意思決定を行わなければならず、つまりこれが経営者が担う経営責任のこととなるのである。

自社の製品・商品・サービスを購入・利用してくださる顧客のためにも、それらの提供体制を支える関係協力者や従業員のためにも、それらすべてを包括的に組織し地域社会へ貢献する役割も担う自社という存在意義のためにも、会社も事業も続けていかなければならないのである。そのために、経営は決めていかなければならないのである。

しかしそうは望んでいても、突然契約が打ち切られてしまったり、思うように売上を伸ばすことができずに四苦八苦する状態が続いたり、この度のコロナ禍のような事態や大規模な自然災害に直面することで追加的な対応に追われたり直接的な売上が減少したり、一進一退どころか一歩進んで二歩下がるような事態に陥ることも想定されうるのが、中小企業という比較的小規模な組織による経営の実情ではないだろうか。

このような不確実な想定を前提とした場合に、会社は「ある程度の規模(スケール)を備えていくことで、より大きなリスクに対応することができる容量(キャパシティ)を得ることができる」のだが、これが存続と同時に並ぶ“成長”の意味である。

どういうことかと言うと、たった1社の取引先と年間1億円の取引を行うことと、10社の取引先とそれぞれ年間1,000万円の取引を行うこと(合計1億円)とでは、そのリスクの性質は確実に変わるのである。

または、ある程度経験や知識技術のある中途採用者1名を年間1,000万円の人件費で雇用する場合と、ほぼ経験や知識技術がない新規採用者5名を各人200万円の人件費(合計1,000万円)で雇用する場合とでも、やはりそのリスクの性質は確実に変わるのである。

さらには、A社もB社も売上高経常利益率は6%であったとしても、そもそもA社の年間売上高は3,000万円でB社はその10倍の年間売上高3億円だった場合、規模(スケール)という意味では全く異なるのである(各社における経常利益額はA社が180万円、B社は1,800万円であって、180万円でできることと1,800万円でできることには大きな差があることは容易に想像がつくだろう)。

そもそもの「成長」とは何を意味するのかは大変重要な前提となってくるため各会社ごとにしっかりと見極めていかなければならないが(これを“経営課題の抽出”という)、例え1社からの契約が突然のかたちで打ち切られたとしても、例えスーパーエースな社員が1名退職したとしても、忘れた頃にやってくる自然災害によって甚大な被害を受けたとしても、それでも続けていくことができる会社であらねばならないのだ。

反対に、会社を続けていくことができる安心感が高められるのであれば、次への成長のため、次へのリスク対応能力を高めるため、トライ&エラーとしての挑戦や投資を行うような意思決定も経営としては必要になるだろう。余談ではあるが、そういった会社の風土はその組織を構成するメンバーの成長機会にもなり得ることとなり、会社も人も成長するのである(しかし、中々こういった意思決定ができないので中小企業は一般的に人材育成に弱いと言われる所以となっている)。

存続と成長を担う経営者にとって、存続していくことによって自社が自社たる存在意義を守り・発揮することができる一方で、マクロなりミクロなりの経営環境の変化への対応が連続的に迫られる中での安定性や存続性を強化していくための成長性が同時に求められていることを知っておかなければならないのである。

存続しない限り成長はないが、成長していくことが存続を守るとも言えるのだ。

意思決定のための「管理会計」

では、会社を存続させ成長させていくうえで、どのように経営意思決定を成すべきだろうか?

その意思決定のための1つの重要な情報提供機能こそが「管理会計」である。

中小企業の場合、多くは「税務(税金計算が主)」を中心とした会計(税務会計)に取り組むことで、税務的なリスクの発見に役立てたり、その年度に負担すべき税額を把握することに役立てたりしつつ、制度上の義務となる法人税等の確定申告を滞りなく果たすために採用されているものと思われる。ここでの主眼は「税金と税金回り」である。

あまりに税金を主眼とするがために、たまぁに「税金をできるだけ払いたくないのでもっと経費を使いたい」という社長に出くわすことがあるのだが、これは会社の成長性を低めること、つまりはその先として会社の存続性すらも低めることに繋がるため、正直、あまり関わりたいとは思わない相談である。これからの成長に関係するような投資的な経費であったりするのであれば別だが、たった2割から3.5割ほどの税金を少なくする代わりに、6.5割から8割のキャッシュを犠牲にしている(捨てている)のだから、何がしたいのかよく分からないのである(この令和の時代であっても節税一辺倒で会計を使いたい方は、そういった相談を受けることでしか支援できない会計事務所も未だに存在するようなので、そういった会計事務所に顧問に就いてもらうことをお勧めする)。

こうした「外部(税務署)へ報告することを目的」とした会計の利用(税務会計)の一方で、「社内の経営における情報の活用を目的」とした会計の利用が管理会計なのだ。

自社の現状をおおまかに知る「財務分析」から、自社がこれからどこへ・どのように進むかを示す「経営計画(中期ビジョン)」の立案、そしてその経営計画をより具体的・実践的に割り出していく「事業計画(単年度計画)」の策定に至るまで、管理会計は多くの有用な情報を経営に対して提供するのである。

次回は②入門編として「短期的な視点」に基づいた簡単な管理会計の使い方をご案内する予定である。

つづく。