「同じこと、何度も言っているのに!」と嘆いたり、実際にこのような言葉を発してしまうことはないだろうか?
2003年に刊行され、刺激的かつ明瞭なタイトルとベストセラーになったことで良く知られている『バカの壁』という養老孟司氏の書籍は、まさにこのような場面を解説または客観的に理解するには最も適したテキストの1つではないかと思われるが、今もなお本書が指摘するこうした事態が生じる背景や文脈について思い起こすことがある。
先日、ある中小企業の経営者の方とのお話の中で、
「もうそういうことは何度言ったことか。この2年くらいの中で5~6回は言っていると思うよ。でも、うちの社員は変わらないんだよね。」
と嘆かれる場面があった。
会社のことを想い、そして現在直面されている経営課題をクリアさせ経営の安定化を図っていきたい、そのような意思が働くからこその嘆き節ではないかと受け止めつつ、続けて詳しい話を聞かせて頂くこととなった。
とは言え、正直申し上げるといくつかこの嘆きには突っ込みを入れたくなる気持ちもあった。
例えば、
・何度も言ってダメということであれば、そもそも伝わっていないのではないか
・2年の中で5~6回、これは果たして多いのか少ないのか
など(決して言うことはしないが)。
『アドラー心理学』で有名なオーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー氏いわく「あらゆる悩みは対人関係の悩みである」とのことだが、たしかに、機械やロボットであれば指示した通りに動くのだから、厄介なのは意思がそれぞれに備わっている人間を相手にしたケースなのかもしれない(逆もまた然りか)。
人の集まりである社会や会社に於いては、日常的に人と人との何かしらの関係性、良くも悪くもといった場面が繰り返されていることだろう。私(筆者)もまた、上記のような場面の他にも、自身が勤務する会社においても然り、支援担当させて頂いているクライアントにおいても然り、人にまつわる悩みは必ずあるものだと認識している。
さぁ、ではこのような悩みを解決に導くにあたって、どのように未来会計は支援を行うべきだろうか。それは本コラムの表題にも記した「見える化」が大変有効な手段の1つであると考えている。
「言うこと」という行為による消極的要素という視点でまずは捉えてみると、
・その場の即効性はあっても持続性に乏しい可能性(忘れやすい)
・何を伝えようとしているのかよく分からない可能性(受け手側)
・整理して言っている“つもり”になっている可能性(発言者側)
などが思いつく。
さらに「言うこと」という行為による消極的要素によってもたらされる事態としては、
・また同じこと言っているよ(…受け手側が聞く耳を持たなくなる)
・結局何度も言うのループにはまる(…発言者側の疲弊と落胆を招く)
などが思いつくが、いかがだろうか。
このような事態を避けるためにも、「見える化」を是非とも行っていただきたいと考える。
では、「見える化」とは何か?
そして、何を・どのように「見える化」させるのか?
まず、「見える化」について押さえておきたいのは、
・人は視覚的に情報を認知することに慣れている
・図や表などで示すことは思考の整理にも適している
という特性があること、つまりは言葉という聴覚的情報に依存せずとも「ぱっと見るだけでおおよその内容が伝わる」簡便さがあり、視覚的情報には慣れているがゆえにそもそも「ある程度の興味をもって見ることができる」というハードルの低さという利点などがありそうだ(そういう意味では、「言うこと」は発言者側のハードルの低さに頼っている、とも言えそうか)。
その一方で、受け手側のみならず伝える側においても、見える化させる労力は必要とするものの(ここがネック)、そのプロセスにおいては自身の思考を整理することに役立ち、もちろん受け手側においては見るだけである程度の情報を受け取ることができる点では、win-winの関係も成り立つ。
次に、何を・どのように「見える化」させるのか、ここからはより具体的な事例をもって簡単に紹介したい。
「見える化」の具体例
販売業を営むA社は、一般消費者向けにはECサイトを利用した小売を、事業者向けには卸売を行っている。近年、ECサイトによる販売量が順調に増えた結果、立派な一つの収益部門として成り立つほどにまで成長を遂げ、A社そのものの収益性が向上し財政状態がすこぶる良好な状態へと繋がってきている。より積極的な投資によって、更なる成長を遂げられるだろうポテンシャルが向上している状態だ。
A社の社長はそのような成長過程の中、確かに結果は出ているものの、しかし結局ECサイトでは広告代やサイト利用料の他、在庫管理や梱包・発送などの諸費用で、実際にはそれほど儲かっているという実感を得られずにいるという。確かに社長のおっしゃられる通り、近年の成長に伴って従前にはなかった費用が数千万円という規模で計上されており、全社的に見た上では営業利益率が向上している部分で“なんとなくECサイトによる恩恵はあるだろう”と言えそうなものの、確信が得られにくい。
また、一口にECサイトと言うものの、実際には最大手の他にもいくつか利用しているため、より細分化した各ECサイトレベルという単位での収益性については更に見えにくくなっている。これでは、実効的かつ具体的な意思決定や指示が出せなくなってしまいかねない状態ではないだろうか。
このような経緯があり、改めて我々未来会計、管理会計の出番となった。
導入としては決して難しいことではなく、単純な部門別利益が見える形にすることで解決を図ることを提案した。
解決のための論点はいくつかあり、例えば
①部門の設定方法(階層指定を行うことで、各レベルにおける貢献度を見える化)
②各種取引の部門認識方法(請求書やデータレベルでいかに簡易かつ正確に拾えるか)
③共通原価・共通費の認識とその配賦基準と方法(共通する取引を何をもって・どのように負担させるか)
などが挙げられる。
以上、体裁としては決して難しくはないものの、なるべく経理担当者など現場へ加わる負荷を最小に、かつ、月次ベースでより簡易かつスムーズな運用と活用ができるようなユーザビリティへの工夫が必須であり、そして経営者による意思決定や判断に有用なものでなくてはならず、企画から設計・構築・運用に至るまでのプロセスにこそ我々独自のノウハウがあるものと思っている。
改めて、A社の新事業年度が始まる月より本支援に入ったところ、さっそくその結果にA社の社長からは大変満足いくリアクションを頂くことができた。
それまで埋没していたデータがパッと見て分かる、判断できる、現場に具体化した改善行動を明確な根拠をもって指示できる。たとえ指示された側がその指示内容に疑問を感じたとしても、見える化された資料によって社長と意見交換することができ(共有)納得し行動に移すこと(共感)ができる。見える化による効果は、若さやアイディアや行動力に溢れるA社社長によって、より大きく有効に活用されていくことだろう。
ここまでで気になることは、上記中に“ここがネック”と軽く言及した「見える化」させるために必要とする労力と時間ではないだろうか。多忙を極める日々を送る多くの中小企業では、緊急性の高い領域に振り回されがちな傾向が強いと思われ、ゆえに、ここへの労力を割くことが難しいことも十分考えられ得る。もちろん「見える化」させられるノウハウの有無も含めて。
未来会計による支援の中では上述したような事例は多く、経営者のちょっとした悩みの中からであっても「見える化」することで解決に導くことのできる具体的な提案・支援を行っている。それ以前にも、未来会計の入り口となる中期経営計画の立案という手段・プロセスもまた、実は1つの「見える化」する機会とも言えるだろう。頭の中にあるイメージや感覚や理屈・経営観というものを言語化し数値化し計画書に記していく、もちろん「パッと見て分かる・判断できる」という機能性はまだ弱い段階ではあるものの、計画することは「見える化」することに非常に近しい機会ではないだろうかと筆者は考えている。
弊社では未来会計による支援のほか、『中期5ヵ年計画立案教室』というタイトルで中期経営計画の立案支援も随時行っている。是非こちらも利用して頂きたい。
「見える化」はひとつの手段に過ぎない
最後に、「見える化」は手段の1つであり、ケースバイケースで期待される機能も変わる。
同じようなことでも「見る化」「見させる化」「見える化モドキ」も存在する。モドキとは、「すぐに・パッと・見えて・判断に繋がる」ようでいて、実際のところ見えるまでのプロセスが長く・複雑な経緯を要する場合を指す(何度もマウスをクリックして対象のファイルを開かさせ、更にクリックを要してようやく見える化させた資料に辿り着き、「このようにばっちり見える化されています、みんな見えてるよね?」などがありがち)。
見える化の根本は人と人との関係性における最適化を図ることであり、手段のみの最適化に依存してしまうようでは恐らく本末転倒な結果を招くだろうと思われるので、注意深さは併せ持っておきたいと願う。
未来会計は、企業価値を高め、強い企業体質作りの支援を行っております。お気軽にお問い合わせ下さい。
045-475-3745
平日9:00 – 18:00