経営数字に強くなりたい社長

何かと節目が訪れる3月という時期。

卒業シーズンであり、本年はさらに東日本大震災から丸10年という節目。そしてその終息という節目が訪れることを願いつつも未だ出口が見えにくい状況が続く、世界の一変(コロナショック)から丸1年が経過する。

日頃より私(筆者)が経営管理支援を行っている、主には地域の飲食店や宿泊施設などへ食品・飲料類を卸すA社もまた、コロナショックによる売上の激減という荒波を何とか乗りこなしながら今現在も社長を筆頭に精力的に事業へ励まれている。

コロナショックが起きる以前より、現事業を取り巻く経営環境の変化に危機感を覚えていたところから、事業転換を模索・画策した上でその実現のために歩を進めていた。

そうした中で起こり始めた一昨年のコロナショックだった。

老舗として多くの顧客である取引先を抱え、数名の社員たちを束ねる社長は、この状況や影響への考えを次のように語ってくれた。

「コロナショックによる影響はもちろん大きいよ。ただ“それだけ”が原因でうちが厳しい状況かと言ったら、実際のところそれ以前から重要な問題には常に晒され続けている状態だったという方が正しいと思う。いずれにしてもコロナショックによる影響度合いを組みこんだ上での施策を追加しつつ、やるべき事に取り組む体制で邁進していきたい」

支援に入ったばかりの頃の社長は、不安や不満ばかりを抱えお世辞にも経営力が高いとは言えない状態だった。なんとたくましく、そして社員にとっても会社リーダー足る粋を兼ね備えたことかと感慨深くもある力強い言葉だった。


「数字に強くなる」ために簿記は必要?

ここから本題に入るが、社長は経営上の数字、つまり試算表や決算書で損益計算書や貸借対照表を見ること・読むことが苦手だった。

月次試算表を見るとしたら、損益計算書上の「売上高」と「税引前利益」の2項目のみ。貸借対照表は全く見ない(というより、見方・読み方を知らないから見ないが正しいか)。

支援に入って以来、毎月必ず試算表を一緒に確認する習慣をつけていく中で、徐々に社長の意欲の高まりを感じる出来事があった。

「もっとこういう数字に強くなりたいと思うんだけど、何から勉強したら良いかな?簿記とかの基礎から勉強して検定試験とか受けた方が良いかな?」

このような場合、我々会計人はどう答えるべきだろうか。

または、世の諸先輩経営者の方々はどのように答えるだろうか。


例えば日商簿記検定試験を想定してみた場合、3級は3ヵ月程度の勉強で一発合格を狙うことが可能な入門レベルであり、2級になると工業簿記が入ってきつつ商業簿記では連結会計なども一部扱うが故に半年程度の勉強を要するとも言われている。ついでに1級になると商業簿記・工業簿記に加え会計学や管理会計要素も加わり、より高度な知識や処理能力が求められる。

1級までとは勿論言わないが、果たして社長にとってこのような勉強は必要だろうか。

正直に申し上げると、経営実務上の数字の見方・読み方に強くなることと、簿記検定に受かっていることとは、全く関係無いわけではないものの、関係は薄いと筆者は考えている。

特に試算表や決算書は商業簿記の範囲であり、敢えてお勧めするとしたら「5つの箱(資産・負債・純資産・収益・費用)」の意味と分け方(貸方・借方のルール)くらいは知っておいた方が良い程度だと考える(簿記3級の入門段階)。欲を言えば、ひと癖ある減価償却という処理の考え方も知っておくと良いだろう。

日頃より簿記の知識を縦横無尽に駆使する会計事務所の職員であれば誰でも試算表や決算書がスラスラと読めるのかというと、それはそれで違うこともこのように考える理由の一つに挙げられる(ただし、なぜそのような数字になるのかの裏付けと理屈は誰もが理解している)。

更には、日頃より多忙極まりない中小企業の社長、休日であったとしても出張先であったとしても、常に何かと連絡が入ってはその対応に迫られることも多い。

やる気になり一歩踏み出そうと意気込むこと自体は大きな価値があるだろうと思われるが、一方で初期衝動的な意欲だけではいずれ続かなくなるだろうこと、その続かなくなったことによるストレスが意外とボディブローのように効いてしまい経営に集中できなくなってしまうだろうことまでを想定すると、これでは本末転倒になりかねないと考える。


「数字に強くなる」ためのステップ

筆者は是非とも経営者の方々にはこのようにご提案を申し上げたい。

まずは会計事務所担当者と一緒に試算表なり決算書に目を通す習慣を持つこと(読めなくて構わないが、疑問点はその都度担当者に投げかけてみること、続けることが重要!損益計算書だけでなく必ず貸借対照表を使って欲しいと願う)

自社にとって試算表や決算書で特に重要な箇所はどこか、ポイントを絞って押さえていくこと(全社に共通するポイントもあれば、業種・業態により着目すべきポイントが異なることもあり、さらには会社状態によっては着目すべきポイントも異なる。ここでも会計事務所担当者や先輩経営者のほか付き合いのあるコンサルタントなどに投げかけてみる、またはセミナーなどへ参加してみることも有効)

押さえたポイントを改善する・強化するにはどうしたら良いかを論理的な展開を試みてみること(試算表や決算書などの財務会計はどうしても具体性に欠けてしまう弱みがあるため、経営のための具体性を得るためには要素別への展開が必須であり、是非とも経営のための会計である「管理会計」について興味を持って欲しい)

尚、本稿で取り上げたA社社長は現在、データ経営を取り入れている。


従前通り、損益計算書の売上や利益は必ず見るものの、すでにその見方やポイントは押さえている。そして中長期的な成長を成し遂げるべく、貸借対照表から自社の財政状態の問題点を押さえた上で、より具体的に何をすべきかを割り出すことに繋がっている。

財務会計では決して見えない社内にあるデータを会社の財産として捉え、データを経営に活かすことにより、社長だけでなく社員とともに主体的に具体性をもった取組みができる組織体制を整えている道半ばだ。

志高く邁進するA社には、やがて良好な節目が訪れるだろうことを期待している。

未来会計は、企業価値を高め、強い企業体質作りの支援を行っております。お気軽にお問い合わせ下さい。

045-475-3745

平日9:00 – 18:00