試算表・決算書をみる

決算書・試算表

中小企業の経営者で、どれだけの方が毎月の自社の試算表をしっかりと見る・読み込む習慣を身に付けているだろうか?

または、年に1回の決算を終えるタイミングで、どれだけの方がその出来上がった決算書をしっかりと見る・読み込んでいるだろうか?

先月のコラムの中では「試算表や決算書へ目を通す習慣を持つこと」を提案していたが、日頃より相談を受けたり弊社が提供するセミナーへ参加してくださる方々の中には、このような習慣を持たれていない方がまぁまぁ見受けられる。

仮に習慣化されていたとしても、損益計算書を中心に売上や利益など局所的にしか見ていない方が多いように感じている。

皆さまはいかがだろうか。

試算表の3大ポイント

税理士事務所や会計事務所において法人部門を担当する者にとって、その最も重要な作業は極論してしまうと「毎月の試算表を作ること」であると言っても過言ではないと考えている。むしろ、それさえ毎月きちんと出来ている状態であれば、クライアントである顧問先への適切な顧問としての役割はほぼ担い切れていると言っても良いだろうと思っている。

誤解なきよう補足としてそのポイントを3つ挙げておくが、

①遅れることなく毎月必ずコンスタントに作っていること
②見る価値、読む価値のある内容の試算表であること
③作成後、クライアントと共有すること

が重要なポイントであることを強調しておきたい(後ほど解説します)。

経営者にとって重要性が高いばかりでなく、その顧問として会社を支える一部を担う税理士事務所や会計事務所においてもその重要性が高いものが試算表である。

試算表には、その月に自身が行ったこと(経営や業務)そのものや、そのことによって生じた結果や影響などが数字としてまとめられている。それらの単純な良し悪しもあれば、良い悪いだけでは判別がつきにくい兆候というものも表われる。それらを認識し評価することを通し、重要な学習としての振り返りと、さらに重要な今後への改善や課題を認識する、そういった機会を得ることができるのが試算表であると思っている。

能動的利用者は経営者であっても、そのための下支えする役割を担う者が税理士事務所や会計事務所であり、両者の協力をもって是非とも試算表をしっかりと見る・読み込む習慣を持って欲しいと願う。

先に挙げた補足としての重要なポイント①~③について、改めて簡単に解説したい。

試算表を遅れることなく毎月必ずコンスタントに作っている

まず「①遅れることなく毎月必ずコンスタントに作っていること」とはどういうことだろうか。

習慣化にあたって大切なこととは、決めた時期に決めたことをかならずやり続けること、にあるのではないかと思う。特に決めた時期に行わないことによって、ズルズルと先延ばししてしまったり、今月は止めて来月一緒にまとめてやろうなどと飛ばしてしまうことで、その翌月もまた同じ理由をもってやらなくなってしまう可能性が高くなるのだ(身に覚えはないだろうか)。ただでさえ日常業務に忙しい中小企業の場合は、一度決めて取り組んだにしてもこのような原因で習慣化されない内に自然消滅されていってしまうケースは多いのではないかと思われる。

だからこそ顧問税理士または会計事務所担当者とは必ず、毎月このくらいの時期に試算表をもらいたいという意思表示を明確にしたうえで、ではそのためにはどのように両者で協力してできる体制と方法を取るべきか、といった建設的な討議・意見交換を行うことが必須である(特に初期段階では)。こうした投げかけや提案を前もってできる税理士事務所や会計事務所は、恐らくクライアントとの関係性は強く、サービスそのものも無駄なく効率化されているだろうと思われる。

見る価値、読む価値のある内容の試算表である

次に「②見る価値、読む価値のある内容の試算表であること」であるが、これはどういうことだろうか。

せっかく習慣化させ、または習慣化させるために、見たり読み込んでみたりするものの、そもそも見る価値のない試算表・読み込む価値のない試算表であった場合、それらは本末転倒を招くこととなるだろう、ということである。

試算表を見る・読み込むことにはやはり目的がある。繰り返すが、試算表を見ることとはその時点での自社について知ることであり、試算表を読み込むこととは更に一歩踏み込んでこれから先へのある程度の予測を知ることでもあり、その客観的モノサシとしての情報を試算表が提供してくれる、という目的と役割である。

仮に、試算表に計上されている数字が間違っていたとしたら。仮に、試算表に計上されている範囲や場所が間違っていたとしたら。

実はこれらは有り得ることである。会計のプロに任せているのだから安心している、を疑わなければならないのだ。

具体的な例でいうと、

・棚卸や仕掛の数字がまったく反映されていない、計上されていない場合
・流動性のものが固定に、固定性のものが流動に計上されてしまっている場合
・原価を構成するものが販売費及び一般管理費に計上されてしまっている場合

などがすぐに挙げられる。

販売業や製造業または建設業を営まれている会社であれば、棚卸や仕掛が反映されない限りは間違いだらけの試算表が出てくるだろう。利益も資産も、まったく現実とはかけ離れた数字で出てくるのだ。このような試算表は果たして、見る価値・読み込む価値はあるだろうか。

短期的な資金繰りが気になっており、ぼちぼち新たな融資をお願いしようかと考えている中で、試算表によるとまだ短期的な資金繰りの危険性は低いという。おかしいな、なんとなく危ないと思っているのだけど、試算表では違うという。これは、流動性のものが固定に計上されていることで起こり得る問題であり、このような試算表は危険極まりないのである。

期日だけ守る、来たらすぐにやる、だけでなく、正しく・見る価値・読み込む価値のある試算表を作ることが重要である。経営者にとってはもちろんのこと、税理士事務所や会計事務所にとっても信頼され得る質を持っているかどうかは、事務所内部における教育体制やチェック機能をもった組織化された事務所であるかどうかが垣間見えるポイントでもあるように思う。

作成後、試算表をクライアントと共有する

最後に「③作成後、クライアントと共有すること」である。

これは何でもそうだが、やりっ放しにしないこと、が重要であるという意味だ。

経営力も会計力も高いクライアントであればまた別だが、会計で構成された試算表は一見するだけでは難解であったりする。それらを翻訳することにより、何を示しているのか、どのような評価を必要とし判断すべきかなどをしっかりと解説しながら共有すること、つまりクライアント単体では読みこなせず・使いこなせない場合である。これは単に教えるとか解説するとかだけに留まることなく、税理士事務所や会計事務所がともに見ることによって、クライアントが求める試算表からの価値を知ることにも通じるのだ。より良い試算表を作るためのポイントでもある。

現在、私(筆者)が未来会計による支援を行っているA社の例であるが、契約するにあたっての当時の現状について代表にお話を伺った際には

「試算表は基本的に見ていません。売上は別途自社で管理していますし、試算表には工事仕掛分が全く載ってこないため、見ても仕方ないじゃないですか。」

とおっしゃっていた。建設業を行うA社にとって、仕掛が載らないのではまったく利益が見えないことは代表のおっしゃられる通りであり、しかも、A社としては毎月必ず仕掛情報を会計事務所にお知らせしていた、とのことであるから驚きだった。

「結局決算ギリギリになって、実はこんなに利益が出ていました、どうしましょうか、なんて言ってくるものだから、毎年決算時は急に忙しくなったり対応に追われたりで、利益が出ていても喜ぶ暇も実感もなかったですね。」

とのことだった。

これはA社に限らず、請負契約によって大きな売上が出る月とそうでない月があるような、製造業または建設業ではよくある事例ではないだろうかと思う。決算前になっていきなり「利益が大きく出ていました」とか、決算後の申告する段階で「利益出ていませんでした、マイナスでした」とか、タイミングによっては取り返しのつかない事態が生じることもあり得る、なんともスリリングな状況である。そのような中で、安定した経営が実現できるかと問うならば、恐らくはそうでない可能性の方が高いだろうと思われる。

会社を安定的に続けていきたい、成長させていきたいと願う経営者の皆さまへ、是非試算表を見る・読み込む習慣をつけて頂くとともに、それらを支える正しい会計についてもより興味をもって認識頂きたいと願う。

弊社では未来会計による支援のほか、こうした試算表の見方や活かし方のセミナーも行っているので、是非参加頂き活用して頂きたいと思う。