先日、かなり久しぶりの機会となったが、外部の経営者団体との協同取組というところで、弊社のセミナー専用ルームにてセミナーを実施させて頂くことが出来た。
コロナ感染防止対策による緊急事態宣言なども一旦治まったところで、ZOOMを利用したオンライン会場だけではなくリアル会場との二刀流での開催ができたことは、昨年2月から1年半以上続いてきたコロナ禍によって覆われた乾いた空気を、多少なりとも潤すことに貢献できたのではないかと思っている。
当経営者団体においては、コロナ禍以前は自発的かつ活発にこうしたセミナーや勉強会を企画し実施されていたとのことであるが、コロナ禍に入って以降はパタリとそういった機会が無くなってしまっていたという。経営者同士で学び合い・教え合い・良い会社を作っていこうがスローガンの団体であるものの、そういった学びの機会が無くなってしまったことで、どうしても繋がりそのものが希薄になりつつあるような感覚があったというのだ。そのような中で有志数名が立ち上がり、今回のセミナーを企画してくださった経緯があり、その制作と当日の講師および開催場所など一式を任せて頂く運びとなった。
「事業承継」は出口戦略の手段のひとつ
この度取り扱うこととなったテーマは「出口戦略・事業承継」である。
「事業承継」は中小企業庁はじめとして国が旗を振る、現在日本が直面している大きな問題の1つでもある。
少子高齢化した中で、中小企業の経営者もまた高齢化し、そしてその後継ぎ(候補)不在の会社が多く、世界の中で1つの大きな競争力となっている中小企業が持つ貴重なノウハウや高い技術力が、これを機に消滅してしまいかねない危機的な状況であることを指す問題だ。
そしてその一方では、今現在このような問題に直面していなくとも、しかし会社経営されている以上はいずれ遅かれ早かれ必ず何かしらの節目を迎えることとなる、必須かつ重要性の高いテーマであるという側面も持つ。いわゆる「出口戦略」の話になるが、事業承継はこの出口戦略の1つの手段でもある。
実はこの「出口戦略」についての認識を深めることとは、会社そのものの捉え方が変わるキッカケになるのではないかと、私は考えている。
どういうことかと言うと、特に多くの中小企業では、会社の所有者である株主と、実質的に会社を機能させていく部分を担う経営者は、ほぼ一致してくるはずだ(所有と経営の一致)。ほぼというのは、親族や他人などの株主が一部入っていることもあるための表現であって、いずれにしろ、多くは「筆頭株主=社長」であるのだと思う。
そのような中では、所有と経営が一致していることによって「意思決定が迅速に行われる」というメリットがあっても、逆に所有と経営が一致しているからこそ「意思決定が独善的に行われる」可能性も高くなるというデメリットもあるのが特徴であったりする。ここでの「独善的」とは、経営者による独りよがりまたは自身の個人的利益を優先した意思決定の場合を指す。組織や組織を構成するメンバーのことがおざなりになっているケースだ。
もちろん、所有者たる株主としての地位そのものを独占しているからこそ、会社そのものを「私の会社」として認識するスタンスを優先される場合には独善的な意思決定であっても構わないのだろう。経営も担っているからこそ、その決定には責任も伴うところも引き受けている上である。
一方で、会社そのものは「社会における公のもの」として「私はその会社を運営する者」であると認識するスタンスを優先させた場合にはどうだろうか。「公」というのは、多くの人々が利用するという意味での「公」である。自社のプロダクトやサービスを購入・利用してくださる顧客はもちろんのこと、会社で働き生活を維持するための所得を得る者または自己実現の場として活用する者、一緒になって取り組むことによってより高い社会的な価値を生産することに喜びを見出す者など、会社という人の集まりによって出来ることは非常に大きく、そしてその効果や影響も大きいのが特徴的である。一人では成し遂げられぬことも出来てしまうのが、会社という一種の仕組みなのかもしれない。
どちらのスタンスが正しく・どちらか一方のスタンスが間違いだという「単純な二項対立」で認識することを薦めているのではない。それぞれのスタンスで会社を捉えてみるという試みと、そこから生じる考え方や方針の相違とは何かを感じ取ること、そのうえで、どちらか一方に極端に偏った経営や意思決定を行っていないか、何かおざなりにしている視点・欠いている視点はないかを確認する機会になり得るものと考えている。いわゆる、経営における「客観的な基準」というものである。
出口戦略の選択肢
「出口戦略」を考えた場合、そこにはいくつかの選択肢が用意されている。
すでに財政状態に大きな問題がある場合(資金繰りの行き詰まりなど)や、現経営者における年齢的なこと・体力気力などの健康状態などで気になる箇所がある場合などには、ある程度その出口そのものが緊急性の高いテーマになるだろうと同時に、緊急性が高いことによって選択肢が絞られてくることもあるので注意が必要である。
そうでない場合には「能動的な選択」が可能な状態として複数の選択肢を持つことができる(近年ではいくつかの出口戦略を組み合わせた「ハイブリッド型出口戦略」と呼ばれるスキームもあるため、興味ある方は是非弊社へもお問合せ頂ければと思う)。
それぞれの選択肢に対する印象としての良し悪しはあるかもしれないが、そもそも、経営者として会社オーナーとして自身の会社をどうしていきたいかを考える機会になるのだ。その際に、優先するポイントをどこに見出すかが上記で申し上げた“「出口戦略」についての認識を深めることとは、会社そのものの捉え方が変わるキッカケになるのではないか”に繋がってくる。皆さまであれば、いずれその出口を何らかのタイミング・方法で迎えることとなるが、その際に何を重視し優先されるだろうか?その客観的な基準とは、何であるだろうか?
このような「出口戦略」についての講義を前半に配置した後に、その選択肢の中でも1つの現実的なカードとして持っておきたいだろう「事業承継」についてフィーチャーした内容を後半分として講義を行わせて頂いた。
簡単な紹介にはなるが、実際のところ「事業承継」は幅広く・多岐にわたる論点を内包していることに大きな注意が必要である。
どういうことかと言うと、単に
・会社所有者たる地位の証票としての株式を、財産として譲り渡す・引き受ける
に留まる話だけではなく、
・会社経営をどのように引き継ぐか、経営の何を・誰に・いつ引き継ぐか
・自社の強みや弱みとは何か、市場における独自性や特徴とは何か
・相続人として推定される具体的な人とは、家族・親族間におけるバランスは
・事前に対策できることとそうでないこと、その優先順位はどこからか
などなど、比較的よく知られているお金や税金に絡んだ論点のほかにも、具体的な形あるものとして見えるもの・見えないものなど、その認識の仕方や評価・検討すべき事項諸々含め、非常に幅広く、そして深い内容を含んでいる。
ゆえに、突然降りかかる災いのように事業承継に取り組むのではなく、ある程度のその全体像や代表的な論点を押さえておくことによって、では現状の自社として何か必要なことはないかという想像力を働かせること、いずれそうなるのであればどの時点で何をすべきか自社の未来を見通す洞察力を働かせること、そのようにお役立て戴けると幸いである。
なお、税務的な側面ではこのところ「生前贈与が封じられる」というニュースが飛び交っているようで、ある程度の財産を築かれている方にとっては、節税を図るうえでの有効な手段を絶たれることになりかねず、内心穏やかにはいられなくなるだろうと思う。
事業承継においては「相続時精算課税制度」の活用の有無など、生前贈与の活用はそのスキームの重要な一部を構成しており、そのようなケースは非常に多いだろうと思う。
是非ともこの辺りの今後の動向については、事業承継または相続など控えていらっしゃる方々、要注視して頂きたいと思う。
セミナーを終えて
久しぶりのセミナー、一応リアル会場での飛散防止のためにマスク着用のうえで約75分ほど、自作のスライドと共にお話させて頂いた。水分補給の度にマスクをズラしたり、多少の息苦しさを感じるために呼吸が大きくなっていたことで、オンラインによる配信では少々の聞き苦しいところもあったのではないかと想像したセミナーであった。
リアル会場においては終了と同時に大きな拍手を頂けたこと、その鳴り響く音圧がまたしばらくぶりのことだったこともあり、このところ感じることのなかった大きな感動を頂いたような気持ちになった。とても有難いことである。
弊社による未来会計では、事業承継を「経営のバトンタッチ」として大きな枠組みで捉えた支援を行っている。節税や生前贈与という部分のみを最適化する支援ではない、という意味だ。
これから取り組まれる方、そのような予定や見込みがある方、是非ともお問合せ頂けると幸いである。